運動器疾患の新しいリハビリテーション法の開発や医用工学技術への応用に期待
~脳神経内科学分野で世界最高峰の学術雑誌アナルズオブニューロロジ-に掲載~
本学理工学部情報理工学科の古屋晋一准教授は、ゲッティンゲン大学のNitsche教授、Paulus教授,ハノーファー音楽演劇大学のAltenmüller教授らと共同で、非侵襲に脳を電気刺激する手法を用いて、音楽家の局所性ジストニアの運動機能低下を改善する新しい手法の開発に世界で初めて成功しました。この成果は、脳神経内科分野において世界最高峰のアメリカの学術雑誌Annals of Neurology (アナルズオブニューロロジー誌、インパクトファクター 11.2)に、2014年4月7日付でオンライン版にて先行公開されました。
音楽家の手指や唇、喉が思い通りに動かなくなる「局所性ジストニア」は、ピアニストのレオン・フライシャーや人気ミュージシャン「コブクロ」の小渕健太郎さんなど、数多くの音楽家を苦しめてきた脳神経疾患です。これまでの主な治療法は、ボツリヌス毒素の注射や脳外科手術といった侵襲的な(=生体を傷つける)ものであり、非侵襲かつ効果的に症状を改善する治療法は確立されていませんでした。そのため、ジストニアの発症により、音楽家のQOLが著しく低下するだけではなく、演奏家生命が断たれてしまうケースも少なくありませんでした。
古屋准教授らは、非侵襲で頭皮上から脳を電気刺激する経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)という技術を用いて、ピアニストのジストニアの症状を改善することに世界で初めて成功しました。
本研究で得られた成果は、局所性ジストニアの画期的な治療法の開発の基盤となるだけではなく、脳科学、リハビリテーション科学、生体医工学、スポーツ科学など幅広い分野への波及効果が期待できます。
本研究の要点
■非侵襲脳電気刺激技術とリハビリを組み合わせ、疾患のある脳部位の機能異常を正常化する技術の開発に成功
■ジストニアによる不随意運動を抑制し、ピアニストの手指動作の巧緻性が向上
■重篤な症状ほど,大幅な機能向上が起こり、訓練効果は数日間に渡り保持
■脳卒中をはじめとする数多くの脳神経疾患に応用可能な技術
論文名および著者
雑誌名 : Annals of Neurology (アナルズオブニューロロジー)
論文タイトル : Surmounting retraining limits in musicians’ dystonia by transcranial stimulation
オンライン版URL : http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.24151/abstract
著者(共著) : Shinichi Furuya*(古屋 晋一・上智大)、Michael Nitsche(ミヒャエル ニッチェ・ゲッティンゲン大)、Walter Paulus(ウォルター パウルス・ゲッティンゲン大)、Eckart Altenmüller(エッカルト アルテンミュラー・ハノーファー音大)
本リリース内容に関するお問合せ先
上智大学 理工学部 情報理工学科 古屋晋一 准教授 (TEL:03-3238-8575 E-mail:sfuruya@sophia.ac.jp)
大阪大学基礎工学部卒業後、医学系研究科にて博士(医学)を取得。ハノーファー音楽演劇大学音楽生理学・音楽家医学研究所 研究員、日本学術振興会特別研究員、フンボルト財団招聘研究員などを歴任。音楽演奏の脳神経メカニズムや身体運動技能、音楽家の脳神経疾患について研究。現在の主たる研究テーマは「音楽家の局所性ジストニアの脳神経メカニズムの解明と診断法・神経リハビリテーション法の開発」「音楽家の超絶技巧を支える運動制御・運動学習メカニズムの解明と熟達支援」。自身もピアニストとして、KOBE国際学生音楽コンクール入賞、Ernest Bloch音楽祭出演、兵庫県立美術館にてリサイタル開催などの実績を持つ。
本件は、本学公式HPニュース欄にも掲載され、プレスリリースされています。