上智大学(東京都千代田区、学長:曄道佳明) 理工学部の栗野真大博士(上智大学PD)と高柳和雄教授は、正エネルギー束縛状態(Bound state in the continuum, BIC)を持つポテンシャルの理論を完成させ、そのようなポテンシャルの一般的性質を解明しました。
本研究成果は、日本物理学会の Progress of Theoretical and Experimental Physics誌に2024年6月18日付でオンライン上に公開され、Editors’choice 論文に選ばれました。さらに、国際的なウェブジャーナルであるJPS Hot Topicsでも非専門家に向けて紹介されることになっています。
量子力学で扱われる電子や陽子は、“ポテンシャル”から力を受けて運動しており、その状態にはポテンシャル周辺に局在した状態である「束縛状態」と、広がった「散乱状態」の2つがあります。本研究はそのような粒子の束縛状態が持つエネルギーについて新しい知見を与えるものです。
私たちが量子力学で最初に出会うポテンシャルは局所ポテンシャルV(r)の形をしており、そこから力を受けて運動する粒子の束縛状態のエネルギーは負であると習います。それに対し、正エネルギーの束縛状態を持つ局所ポテンシャルが例外的に存在することが100年近く前にフォンノイマンとウィグナーにより示されましたが、現在に至るまでその様な状態は発見されていません。
本研究では、より一般的に非局所ポテンシャルV(r’,r)で考えると、束縛状態のエネルギーは負の場合と同じだけ正にもなり得る、という事を示しました。これは束縛状態に対するこれまでの常識を覆すような結果です。また、本研究は、どのような非局所ポテンシャルが正エネルギー束縛状態を持つのか、また、実験的にはそのような状態をどのような手段で観測出来るのかを明らかにしています。この結果は、非局所ポテンシャルの理論を発展させ、正エネルギー束縛状態の観測に向けた今後の研究が進むべき方向を示すものです。
視点を変えてこの理論を応用面から見ると、広がった散乱状態を局在した正エネルギー束縛状態にエネルギーロスを生むことなく変化させる、ということが可能であることを示しており、電子の運動状態の制御への応用が期待されます。また、大きなエネルギーを局在した正エネルギー束縛状態に蓄積させられる可能性も示唆しており、エネルギーの新たな制御、貯蔵手段としての活用が期待されます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究C(23K03420)の助成を受けています。
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上智大学 理工学部
上智大学PD 栗野 真大 (E-mail:m-kurino-ex5@eagle.sophia.ac.jp)
教授 高柳 和雄 (E-mail: k-takaya@sophia.ac.jp)
上智大学広報グループ
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