機能創造理工学科の足立匡准教授が日本中間子科学会奨励賞を受賞しました。
学会名:日本中間子科学会
賞名:日本中間子科学会奨励賞
受賞者:足立 匡(理工学部機能創造理工学科 准教授)
研究題目:「電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体におけるμSRによる磁性と超伝導に関する研究」
受賞日:2017年3月19日
Q)足立先生の研究の内容を簡単に教えて下さい。
A)電気抵抗がゼロになったり磁石の上に浮いたりする「超伝導」は、大きなインパクトを持つ魅力的な現象です。私たちの身の回りでは、リニア新幹線や体の内部を詳しく調べることができる磁気共鳴診断装置(MRI)などで使われています。ただ、超伝導を示す物質を使うためには温度を下げる必要があるので、冷やすためのコストがかかっています。
将来、私たちが暮らしている室温で超伝導を示す物質が開発されたら何が起こるでしょうか。例えば、室温超伝導物質で送電線を作れば、発電所から世界中に効率よく電気を運ぶことができるので、エネルギー革命が起こると言われています。ワクワクしますね。現在、もっとも高い温度で超伝導を示す物質は銅の酸化物(それでもマイナス138℃まで冷やす必要がある!)ですが、なぜ高い温度で超伝導を示すのかはわかっていません。このメカニズムを解明すれば、室温超伝導物質の開発につながるので、日夜研究に励んでいます。
マイナス196℃に冷やされた銅酸化物高温超伝導体YBa2Cu3O7-δの上に浮く磁石
Q)足立先生が受賞された研究はどのような内容でしょうか。
A)皆さん、電子が動くことで電気が流れるのは知ってますね。銅酸化物では、電気抵抗ゼロで電気を流すために、物質中の元素を別の元素で置き換えるなどして電子を注入する必要があります。しかし、近年、電子を注入しなくても超伝導になる物質が発見され、そのメカニズムが注目されていました。私たちの研究室では、この新しい超伝導のメカニズムを明らかにするために、銅酸化物の単結晶を作っていろいろな特性を調べてきました。その調べる手段の中に、今回の受賞に関係するミュオンスピン緩和という方法があります。
Q)単結晶、ミュオンスピン緩和、難しそうな言葉が出てきましたね。
A)物質は、原子が規則正しく並んでできていますが、普通に作るとある程度の大きさ(マイクロメートルくらい)の中でしか規則正しく並びません。しかし、特殊な作り方によって、数センチメートルくらいの大きさで原子が規則正しく並んだ物質が作れます。これが単結晶です。単結晶を使うと詳しい性質を調べることができます。
ミュオンスピン緩和というのは、大きな加速器で作ったミュオンという素粒子を物質に
打ち込むことで、物質内のミクロな磁気的性質について詳しく調べることができる実験方法です。茨城県東海村のJ-PARC、イギリスのオックスフォード近郊、スイスのチューリッヒ近郊などに行って実験をします。
今回の受賞は、銅酸化物の単結晶を使ってミュオンスピン緩和実験を行い、新しい超伝導のメカニズムに銅の磁気的な性質が深く関わっていることを突き止めたことが評価されたものです。
茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)http://j-parc.jp/index.html
Q)今後、この研究はどのような方向に発展するのでしょうか。
A)この新しい超伝導のメカニズムを明らかにするためには、もっといろいろな測定を行う必要があります。最大の問題は、電気抵抗ゼロで電気を流すための電子がどこからやってくるかです。私たちは、この銅酸化物の特殊な原子の配列のために電子が存在すると考えています。また、この銅酸化物に余分な酸素を入れると超伝導が消えてしまいます。これらの特徴を使うと、超伝導を示す物質のバラエティが広がり、将来の室温超伝導物質の開発につながると期待されています。