受賞者:宮武 昌史(機能創造理工学科教授)
学会名: IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)
賞名: IEEE “M. Barry Carlton Award”
論文名:2011 – “Maximum Power Point Tracking of Multiple Photovoltaic Arrays: A Particle Swarm Optimization Approach”
授与団体名:IEEE Aerospace & Electronic Systems Society
受賞日:2016年10月26日
Q) 宮武先生の研究の背景はどのようなものでしょうか?
A) 再生可能エネルギーの利用は,今後の持続可能な社会に向けた必須課題です。我々の研究室ではこれまで太陽光発電に着目し,発電効率向上に努めてきました。太陽電池自体の性能も重要ですが,与えられた太陽電池の電圧と電流をうまく制御して,いかに沢山の電力を絞り出すかも重要です。しかも,後者の方が開発・製造コストを抑えられます。
Q) 太陽光発電の制御とはどのようなものでしょうか?
A) 太陽光発電は,太陽電池を多数直並列にして構成されます。その太陽電池は,電圧を変えると下図のように電力が変化します。最も沢山の電力を出せる最適動作点で動作させれば発電効率が上がりますが,日射量や気温の影響によってどこが最適動作点なのか予め分からないので,それを発電しながら常時追いかける制御が必要です。これを最大電力追従(Maximum Power Point Tracking: MPPT)制御といいます。
Q) 今回受賞された研究はどのような内容でしょうか?
A) 我々の研究室では,太陽光発電のMPPT制御に,人工知能の一種である粒子群最適化(Particle Swarm Optimization: PSO)という手法を初めて適用しました。PSOは,鳥などの群れが情報を共有しながら餌を探すことを数理的にモデル化したものです。これによる主な成果は次の2つです。
(1) 写真のように建物などの影が太陽電池の一部にかかった時に難しくなるMPPT制御を容易にした。
(2) 複数の太陽電池アレイ(制御のまとまり)を1つの制御装置で制御可能とした。
これらにより,制御装置のコスト低減を実現できます。なお,写真の太陽電池の一部は,この研究に実際に使用したものです。
Q) この研究はどのような体制で行ったのでしょうか?
A) 1人の大学院生のアイディアをもとに,私がその方法を拡張し,複数名の大学院生が実験装置にプログラムを実装して実験データを取り,共同研究していたインド工科大学デリー校の先生にもご助言を頂きつつ論文をまとめました。教員と学生,さらに海外の先生とのチームワークによって初めて論文が完成したと言えます。
Q) どのような点が評価されて受賞されたのでしょうか?
A) 実はこの論文は5年前に掲載された論文です。論文は雑誌に掲載されて終わりではなく,掲載されてから沢山の人に読んでもらい,参考にしてもらうことで初めて価値を持ちます。この論文は,5年間に渡り多くの人が読んで参考にしたことが受賞の要因になったのだと思います。世界中の読者に感謝です。
Q) この技術は今後どのような方向に発展することが見込まれるでしょうか?
A) 今や,提案した制御方法は,世界中の色々な研究者が利用しています。専門家であれば容易に実装できるため,既に製品に実装されているものもあるかも知れません。太陽光発電以外では,風車の回転速度を最適に制御する必要のある風力発電にも適用できる可能性があります。
Q) 先生は今後の研究をどのように展開する予定ですか?
A) MPPT制御は,本論文が出た後も沢山の手法が提案され,当たり前の技術として普及しています。MPPT手法単体で研究して論文を書くことは既にかなり難しくなっています。今後は,より応用面に軸足を移し,再生可能エネルギーや蓄電技術などを,鉄道を中心とした交通システムに応用する研究を主に続けていきます。