menu close
MENU
2015.10.28

理工学部情報理工学科の古屋晋一准教授が音楽家の超絶技巧を生み出す生体機能をデータサイエンスにより発見しました

エビデンスに基づく画期的な音楽教育法の開発や技能熟達支援の実現に期待~ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)のサイエンティフィック・リポーツ誌に掲載~

理工学部情報理工学科の古屋晋一准教授(音楽医科学研究センター長)は、生体計測とデータサイエンス技術を用いて、音楽家が超高速度で演奏する背後にある生体の働きの同定に世界で初めて成功しました。この成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)が発刊する学術雑誌Scientific Reports (サイエンティフィック・リポーツ誌)に、2015年10月27日付でオンライン版で公開されました。

音楽家が目にも留まらぬ速さで演奏する様子は、古くは19世紀から「超絶技巧」と呼ばれ、世界中の人々を魅了してきました。その姿を見て、「手指の筋力が強そう」と思われる方は少なく無く、音楽家の間でも、「手指の筋肉を鍛えないと」と考え、筋トレをすることもあります。しかし、実際に素早く演奏できる音楽家は、何が優れているのか、これまで正確に知られていませんでした。
そこで、本研究では、ピアニストの指や手首、肘や肩を曲げ伸ばしする筋力や敏捷性、手の大きさ等を実験的に計測し、さらに質問紙を用いて、ピアノを弾き始めた年齢や、成人までの総練習時間などを調査し、身体のどの機能やどういった練習が、高速度で和音を連続打鍵(高速連打)するために必要なのかを調べました。
実験には、ロンティボーやエリザベートといった著名な国際音楽コンクールの受賞者や、カーネギーホールでリサイタルをした演奏家をはじめとするピアニスト24名が参加し、実験結果は、線形回帰モデルや重回帰分析をはじめとする統計手法を用いて、最適なモデルと変数の選択を行いました。
その結果、高速連打できるピアニストほど、①二の腕の筋肉(上腕三頭筋)の力が強く、②手指の握力が弱く、③指の敏捷性が高いことがわかりました。この結果は、「筋トレは演奏に良い、悪い」といった二元論では片付けることはできず、エビデンスに基づいたテイラーメイドの練習法・訓練法の必要性を示唆しています。
本研究で得られた成果は、音楽家が超絶技巧を効率良く獲得するための最適な練習法・訓練法の開発の基盤となるだけではなく、脳科学、リハビリテーション科学、生体医工学、スポーツ科学など幅広い分野への波及効果が期待できます。本研究は、古屋センター長の推進する「超絶技巧プロジェクト」の一部として実施され、ヤマハ音楽振興会の研究支援を受けて行われました。

【本研究の要点】
・卓越した音楽家の生体情報ビッグデータをデータサイエンスの手法によって解析
・より速く演奏できるピアニストほど、二の腕の筋力が強く、指の敏捷性が高い
・握力が強いピアニストほど、特に小さい音量で高速に演奏する際のスピードが遅い
・エビデンスに基づいた教育(Evidence-based Education; EBE)の礎となる知見の提供と研究手法の開発

【論文名および著者】
雑誌名 :Scientific Reports (サイエンティフィック・リポーツ)
論文タイトル : Secrets of virtuoso: neuromuscular attributes of motor virtuosity in expert musicians.
オンライン版URL : www.nature.com/articles/srep15750
著者(共著) : Shinichi Furuya*(古屋 晋一・上智大)、Takanori Oku(奥 貴紀・大阪大)、Fumio Miyazaki(宮崎文夫・大阪大)、Hiroshi Kinoshita(木下 博・大阪大)

なお、このニュースは、プレスリリースされ、本学公式HPにも掲載されています。