上智大学理工学部の長尾 宏隆教授、三澤 智世准教授らの研究グループは、大気中の窒素分子(N2、二窒素)が二つの金属イオン(ルテニウムイオン*1)間に架橋した錯体を合成しました(図1)。本錯体は、類似の金属錯体とは異なる非対称な構造と特異な電子状態にあり、強力な還元剤を用いなくても容易に還元することができます。本研究成果は2025年10月31日付で、英国化学会Dalton Transactionsに掲載されました。
媒体名
Dalton Transactions
論文名
Dinitrogen-bridged diruthenium complexes bearing 2,6-pyridinedicarboxylate in the mixed-valence state
論文掲載日
2025年10月31日
URL
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/dt/d5dt02337h
著者(共著)
Kazunari Uehara, Nayoung Kim, Aya Benzaki, Midori Otsuka, Tomoyo Misawa-Suzuki and Hirotaka Nagao
アンモニアは、窒素肥料をはじめ、衣服や薬剤などの原料として利用されています。最近では、燃焼電池やエンジンの燃料としての利用に関する研究も行われています。アンモニアは液体になりやすく、貯蔵や運搬が容易であることに加え、燃焼により二酸化炭素を発生させないことから、化石燃料に変わる次世代のエネルギー源として期待されています。
現在のアンモニア合成は「ハーバー・ボッシュ法」により行われています。この方法では、鉄化合物を触媒*2として、窒素と水素を原料に、400~600 ℃、100~200気圧という条件が必要です。そのため、大量のエネルギーが必要であることや、原料である水素が主に石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料から製造され、その過程で大量の二酸化炭素が発生することが問題になっています。
一方、自然界では、常温・常圧の条件下で、空気中の窒素からマメ科植物に共生する「根粒菌」の「ニトロゲナーゼ*3」がアンモニアを合成しています。この反応では、複数の金属イオンからなる化合物が、窒素の捕獲からアンモニア合成までを担い、その中間でヒドラジン*4が生成することが知られています。このような背景から、新たなアンモニア合成法の開発が強く求められ、研究が行われています。しかし、それらの研究では、嫌気条件や強力な還元剤が必要とされる課題があります。
本研究では、特殊な装置を用いること無く、大気中で安定なルテニウムイオンを用いて大気中の窒素の捕獲に成功し、窒素を捕獲するために必要なルテニウム錯体の特性について明らかにしました。さらに、このルテニウム錯体は容易に還元することができ、電子を導入することによって捕獲した窒素の活性化が起こると考えられます。

本研究は、窒素を捕獲できる錯体に関する必要な条件を示し、新規の錯体合成に貢献します。アンモニア合成の達成に必要な、複数の電子を導入できる錯体の設計に発展することが期待できます。
本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(22K05302)の助成を受けて実施したものです。
*1 ルテニウム:
比較的安定な貴金属(原子番号44)で、電子材料や触媒として利用される。
*2 触媒:
変化しないが、より温和な条件で速やかに反応を進める物質。
*3 ニトロゲナーゼ:
鉄、モリブデンと硫黄からなる化合物を含み、窒素をアンモニアに変換している。
*4 ヒドラジン:
窒素と水素の反応でも生成する反応性の高い化合物。
上智大学理工学部物質生命理工学科
教授 長尾 宏隆
Email: h-nagao@sophia.ac.jp
上智学院広報グループ
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