メラトニンの代謝産物AMKが長期記憶を促進する
-加齢に伴う記憶力低下の改善に期待-
理工学部物質生命理工学科の千葉 篤彦教授が参加する研究グループの成果が、生理学分野で世界最高峰の国際科学誌であるJournal of Pineal Research誌に、11月21日にオンライン版で発表されました。
研究成果のポイント
松果体ホルモンであるメラトニンの代謝産物 N1-acetyl-5-methoxykynuramine(AMK)を、学習前および学習後にマウスに1回投与するだけで、長期記憶が誘導されることを初めて明らかにしました。
学習・記憶能力が低下した老齢マウスにおいても、AMK を投与すると低下した記憶形成能力が有意に改善することを明らかにしました。
この成果は、AMK が加齢に伴い低下する記憶力の改善や認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の改善薬につながる可能性を示すものであります。
研究成果の概要
研究グループは、マウスの学習・記憶に対するAMK の効果を物体認識試験(※1)によって評価しました。物体認識試験は、新しいものを好むというマウスの性質を利用した試験です。2つの同じ物体を記憶させ、一定時間後に片方を新しい物体に入れ替えるという試験で、その時に古い物体を覚えていれば、新しい物体にひきつけられることになります。つまり、新しい物体を探索する時間、記憶スコア(Discrimination Index:DI値(※2))を測定することで、記憶が形成されたかどうかがわかります。この試験は罰や報酬といった強い刺激を与えないことから、人が日常経験する学習・記憶と類似した記憶であると考えられています。
マウスにAMK を投与し物体認識試験を行ったところ、学習前(1時間前から)、学習直後および学習後(2時間後まで)に1回投与するだけで、24 時間後の長期記憶が形成されることが分かりました。いくつかの実験から海馬(記憶に重要な脳の部位)において、メラトニンはAMK に変換されること、またこのAMK は、形成された短期記憶が消失しないうちに作用することで記憶を固定し、長期記憶への移行を促進する物質であることが明らかになりました。また、マウスも加齢によって記憶力は顕著に低下していきますが、AMK は老年マウスで低下した記憶形成能力を改善することもわかりました。今回の結果は、メラトニンには抗酸化作用による記憶障害の抑制効果がある一方、AMK に変換されて長期記憶を誘導する作用があることを示しています。
※1 「物体認識試験」
マウスの持つ新規探索傾向を利用した、強い刺激を用いない学習記憶試験。
※2 「DI値」
物体認識試験における合計探索時間のうち新規物体を探索した時間の割合。学習させた物体を記憶している場合、その値は有意に50%より高くなる。
研究成果の詳細については、プレスリリースをご覧ください。
プレスリリース全文(PDF)(909.98 KB)