タツノオトシゴはオスが妊娠するというユニークな動物です。オスは、メスから卵を受け取ると、育児嚢で保護し、その後出産します。今回、川口眞理教授らの研究チームは、聖マリアンナ医科大学との共同研究により、育児嚢内で胚が成長する過程で生じる老廃物を、オスが排出する仕組みがあることを示唆する結果を得ました。本研究成果は、2026年9月7日付で国際学術誌Cell and Tissue Researchに公開されました。

プレスリリースPDF版はこちら
一般的に、魚類ではアンモニア輸送体(Rhタンパク質)が鰓などで働き、老廃物であるアンモニアを排出することが知られています。Rhタンパク質には、RhAG、RhBG、RhCG2など複数あり、これらが協力してアンモニアを排出します。RhAGは赤血球や血管で働き、RhBGは鰓の上皮細胞の側底側(体内側の細胞膜)に、RhCG2は鰓の上皮細胞の頂端側(外部環境側の細胞膜)で働いています。本研究では、このRhタンパク質に着目して、タツノオトシゴでは鰓に加えて育児嚢でも働いているのかを調べました。
タツノオトシゴの育児嚢は、内腔を覆う上皮で囲まれた胎盤が卵を保育するのに重要な役割があると考えられています。RhBGはこの上皮の側底側に、RhCG2は頂端側に局在していました(図2)。さらに、上皮付近には血管が発達していますが、この血管ではRhAGが働いていました。鰓では、他の魚類と同様にRhタンパク質が働いていることがわかりました。これらの結果から、次のようなアンモニアの排出機構があると考えられます(図1)。
胚の代謝によって育児嚢内にたまったアンモニアは、内腔の上皮の頂端側にあるRhCG2と側底側にあるRhBGが胎盤に取り込み、上皮付近にある血管に局在しているRhAGを介して血液中に取り込まれると、赤血球に局在しているRhAGを介して血球内に運ばれます。血流に乗って鰓まで運ばれると、血管のRhAG、鰓の上皮細胞の側底側のRhBG、頂端側のRhCG2を介して体外にアンモニアが排出されます。

本研究成果は、タツノオトシゴのオスによる妊娠の生理機構の1つを理解するとともに、育児嚢の進化や親子間の物質交換がどのように行われているのかを明らかにすることにつながると期待されます。
Cell and Tissue Research
A proposed mechanism of ammonia excretion in the seahorse brood pouch revealed by rhesus glycoprotein localization
2026年9月7日
Hiroki Yamazaki, Junya Hiroi, Shigeki Yasumasu, and Mari Kawaguchi*
*責任著者
図1および図2は、Springer Natureの許諾を得て掲載しています。これらの図版の転載、再配布、改変その他の二次利用には別途権利者の許諾が必要です。
本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(19K06793 and 22K06344)の助成を受けて実施したものです。
理工学部物質生命理工学科 教授 川口眞理 (k-mari@sophia.ac.jp)
上智学院広報グループ (sophiapr-co@sophia.ac.jp)